若い時には殆ど不調など感じなかった人も、歳を重ねると次第に何らかの不調を感じるようになります。お医者さんに言わせると「それは年齢のせい。誰でもそうなるんですよ」と言われたりします。でも体調不良になっても病気にならなければ、まあ良いですが、でもそれを抱えたまま生活するのもしんどいですね。体調不良というのは本人しか解らない自覚症状です。でも指圧ではその感覚が判るんです。どうやって体の不調を知るのか。その方法をお話ししてみたいと思います。
まずお腹の「状態」から…
今年最後の指圧サークルに参加した時の事です。患者役のお腹に触れて施術している人に「このお腹の状態は『虚』ですか『実』ですか」と聞いたところ、彼は少し考えた後に「『実』…だと思います」と答えました。それはお腹に筋肉の弾力があったからだそうです。しかしこのお腹は『虚』でした。弾力があっても頼りない弾力なら『虚』なのです。このあたりの判断は難しい所ですが、プロはこのようなトレーニングを慣れるまでするのです。
お腹の「虚実」で回復力を知る…
ではなぜこのようなお腹を観る練習が必要なのでしょうか。それはお腹の状態(『虚実』で表現する)は相手(患者さん)の回復力の強弱を示すものだからです。『実』なら病気に対する回復力があり、『虚』ならその回復力が乏しい事を示します。ですから『実』と判断できれば(回復力があるわけですから)「通常圧」で余裕をもって施術できます。
しかし反対に『虚』と判断すれば(体力がないので)「やや弱めの圧」で慎重に指圧を進める必要があると言うことなのです。この時体力のない人(『虚』と言います)を荒々しく指圧をしようものなら、程度にもよりますが症状を悪化させたり思わぬ症状を引き起こしたりします。つまり施術事故につながるのです。実はそのような事故に私も実際に遭遇しました。
マッサージ店での悲惨な体験…
この夏に池袋のクイックマッサージ店で45分くらい施術を受けたのです。相手は相撲取りのような体格の治療師で、「弱めに…」と注文したのですが、それでも頸や背中をゴリゴリと荒っぽく施術をされました。施術中は一応我慢していたのですが、ところがその晩に強い耳鳴りが突然起こり三日間続きました。その後も耳の横の拍動音(浅側頭動脈の拍動)が耳に伝わって、夜床に入ると「トクトク…」と不快な音を感じるようになりました。これが起こった時は、正直不安でしたね。どうなったのか…と。
後から知ったのですが、この突然起こった耳鳴りは、耳の中の筋肉が興奮し痙攣した時の音だったそうです。これらのトラブルは施術部位の無理を判断できずに強引に施術し、体調を崩したためです。まあ仕事柄いい経験をしたとも思うのですが、私の利用者の方にはこんな経験はさせたくないですね。まずお腹を観て、相手の体調(回復ぐあい)を読んでから施術をすべきだと痛感した次第です。
お腹で判る、その人の状態…
このようにお腹を観察して事前にその状態を判断する事は、施術の安全を確保することに繋がるのです。それまでは私も普段何気なしにお腹を観ていましたが、この一件からは気を入れて観るようになりました。そして漢方の腹診術などにも目を通すようにもなりました。
このお腹から病気や状態を判断するという技術は、日本独自のものだそうです。もともと漢方は中国から輸入されて根付いたものですが、この「腹を診る」という技術は日本で確立されたものです。日常生活でも「腹の中を探る」とか「腹黒い」とか「腹心の部下」とか腹を題材としたフレーズが多々あります。これらは「お腹の中に本当のもの、本質がある」という意味で使われます。これが医術に転用されて「お腹」で病の本質を掴もうとする発想になったんですね。漢方全盛期の江戸時代には「按腹図解(あんぷくずかい)」というお腹を診る専門書まで出たようです。
安全な施術のためにお腹を観る…
指圧ではお腹を診る事が多いです。それはお腹の状態で、その人の体調なりコンディションが判るからです。これはとても便利な技術です。例えば疲れてダルイという人が来た場合、通常「(歩いて来たのだから)この人は健康だろう」と判断したら、お腹の状態は良くなく「あまりコンディションはよくない」と言った事があります。このような時に「健康だから」といたずらに強圧を加えると、体調が更に悪くなる事も珍しくありません。お腹を診るとこのような事故を事前に防ぐことが出来ます。
事故が起きたらお互い嫌な思いをしますし、信用を落とす事にもなります。お蔭さまで利用者の方から、施術クレームがつくような事は起こらず過ごさせております。関心のある方は、下の記事もご覧になって下さい。
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★「虚実」に関心のある方
DVD[虚実」、[虚実補瀉」:http://www.zshiatsu.net/zshiatsu/dvd/dvd2.html
★お腹の診断法に関心のある方
DVD「切診と腹証」:http://www.zshiatsu.net/zshiatsu/dvd/dvd3.html